2018年2月22日木曜日

ノルウェー領グリーンランドの開花

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)の学習 10

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)を読んでその抜き書きをしたり、感想をメモしたりしています。この記事では「第7章ノルウェー領グリーンランドの開花」の感想をメモします。

1 ノルウェー領グリーンランドの入植地
西暦980年頃からノルウェー人の入植がはじまり、1000年頃には約4000人が東入植地に、約1000人が西入植地に入植しました。

2つの入植地

東入植地の様子
海岸から離れたフィヨルドの奥で、なおかつ氷河流入のない場所を選んでいます。

東入植地の現在の様子

2 ノルウェー領グリーンランドが開花できた条件
ノルウェー人たちがグリーンランドにやってきた当初、運よく良好な環境条件がそろっていたおかげで、うまく暮らしていけた。ノルウェー人たちは、手つかずの大地を発見するという幸運に恵まれた。かつて一度も伐採や放牧にさらされたことがなく、牧草栽培にも適した土地だ。しかも、ノルウェー人が到達した当時は気候も比較的穏やかで、たいていの年には飼い葉が不足なく収穫でき、ヨーロッパに至る水路には氷がなかった。さらに、ヨーロッパではセイウチの牙の需要が高く、グリーンランドのノルウェー人入植地や狩場の付近にアメリカ先住民がいない時期でもあった。
生活手段は牧畜と食肉を得るための狩猟であり、漁業は全く行われなかった。

3 グリーンランドのノルウェー人社会の特色
グリーンランドのノルウェー人社会の特色は、五つの言葉で表わすことができる。互いにやや矛盾し合うその言葉とは、〝共同型、暴力的、階層的、保守的、ヨーロッパ志向〟というものだ。これらの特徴は、グリーンランド社会の祖となるアイスランド社会、ノルウェー社会から引き継がれたが、グリーンランドにおいて最も顕著に表面化した。
●共同型
外フィヨルドで仕留められたアザラシは内フィヨルドへ送られ、高地で仕留められたシンリントナカイの肉は低地へ、裕福な農場の家畜は、厳冬で家畜を失った貧しい農場に輸送された。
●暴力的
グリーンランド社会は、アイスランドとノルウェーから、共同体制とともに、ひどく暴力的な傾向も引き継いでいた。
例 氏族間の闘争に敗れた一族のものらしき人骨――男性の人骨十三体と九歳の子どもの人骨一体――が、分散した状態で発掘されている。うち五体の頭蓋骨には、おそらくは斧か刀剣など、鋭利な刃物による傷跡が残されていた。
●階層的
少数の首長が頂点に立って、小さな農場の所有者、自分の農場を持たない借地人、そして(初期には)奴隷を支配するような形だ。
階層制の名残として現在も確認できるのは、貧しい農場に比べると、裕福な農場のごみ捨て場では、ヒツジとアザラシの骨に対するウシとシンリントナカイの骨の比率が高いことだ。
●保守的
グリーンランドのヴァイキング社会は、ノルウェー本国のヴァイキング社会に比べると、変化に抗って旧来のやりかたに固執するという保守的な傾向が強かった。グリーンランドの道具と彫刻の様式は、数世紀のあいだほとんど変化していない。漁労は入植の初期段階で放棄され、社会が存続した四百五十年のあいだ、その決定が覆されることは一度もなかった。ワモンアザラシやクジラの猟については、たとえ地元で入手できる一般的な食物を食べずに飢えることになろうと、イヌイットの狩猟法を学ぼうとはしなかった。
グリーンランド人たちがそういう保守的なものの見かたをするようになった最大の理由は、自分たちが非常にきびしい環境下にあることを意識していたのだろう。経済をうまく発展させたおかげで数世紀のあいだ生き延びることはできたものの、その経済を多様化させると、利益より害悪が生じる可能性のほうがずっと高いと悟ったのだ。保守的になるのもうなずける。
●ヨーロッパ志向
グリーンランド人はヨーロッパから有形の交易品を受け取っていた。
船が訪れた頻度、船の積載能力、グリーンランドの人口を推定して計算してみると、一年にグリーンランド人ひとりが受け取る輸入品の重量は平均約三キロほどになる。到着した荷物の大半は、教会用の物資と上層階級用の贅沢品だったので、大部分のグリーンランド人が受け取る荷物の量は、その平均値よりかなり少なかった。したがって、現実的には、ほとんど場所を取らない貴重品しか輸入されなかったということだ。
グリーンランドからの輸出品で最も珍重されたのは、北極圏産の動物――ヨーロッパの大半の地域では希少であるか、もしくは棲息していない動物――に由来する五つの品目だった。すなわち、セイウチの牙の精製品、セイウチの皮(船で使う最強の縄の材料として貴重)、人目を引くステータスシンボルとしての生きたホッキョクグマもしくはその毛皮、当時ヨーロッパで一角獣の角と信じられていたイッカク(小型のハクジラ)の牙、生きたシロハヤブサ(世界最大のハヤブサ)だ。
ヨーロッパからグリーンランドに輸出されたもののうち、少なくとも有形物と同じ程度に重要なのが、キリスト教徒としての、そしてヨーロッパ人としての自己認識という精神的な〝輸出品〟だった。
経済力に不相応の教会を建設した。
キリスト教徒としてのそういう明確な自己認識に加えて、グリーンランド人は、さまざまな面でヨーロッパ人としての自己認識を保持していた。例えば、ヨーロッパの青銅製の燭台、ガラスのボタン、金の指輪を輸入していたこともそのひとつだ。グリーンランド人は、数世紀に及ぶ植民地の存続中、ヨーロッパの習慣の移り変わりを細部に至るまで手本とし、採り入れていた。確実な記録が残っている例としては、埋葬の習慣が挙げられる。
本物のヨーロッパ人よりヨーロッパ人らしくあろうとしたことが、文化上の足枷となって、その生活様式に抜本的な変更――生存に役立ちうる変更――を加えられなかったわけだ。

3 感想
3-1 社会の特色
ノルウェー領グリーンランドの社会特性のまとめが大変判りやすく説明されています。
以前、アイスランド旅行をしたことがあり、その時地元博物館でサーガ(伝承書)説明展示を詳しくみることができ、ヴァイキング(ノルウェー人)の特色を知りました。(大変ユニークな展示で興味が湧いたのですが、残念ながら写真撮影禁止でした。)その特色を思い出すと、それを純化したものがノルウェー領グリーンランドであると理解できました。
著者は多くの情報からグリーンランド人社会の特色を5つのキーワードで捉えました。
このような捉え方で今学習中の大膳野南貝塚後期集落を捉えるとどうなるのか?
発掘調査報告書の情報を詳しく分析してそこから有用情報を見つけるという思考とともに、集落社会全体の特色はどうであるのかザックリと全体像を見渡すような思考も時々必要であると感じました。

3-2 漁業がおこなわれなかったこと
ノルウェーやアイスランドでは漁業が行われれていたのに、そこを出自とするグリーンランド人が飢餓を恐れながらも漁業を全く行わなかったことは興味深いことです。
著者は入植初期に指導者が海産物による中毒にかかり、それがきっかけで漁業がタブーになったのではないかと想像しています。

3-3 後知恵
著者は現代人は後知恵があるのグリーンランド人社会の活動が不合理であったように感じるが、当時の社会では必然的な活動が行われたという趣旨の文章を何べんも書いています。
過去社会を読み解く上で(学習する上で)大切な視点であると思います。


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