2021年7月12日月曜日

裸眼実体視

 先日送られてきた「写真測量とリモートセンシング-空間情報の計測と利用-」(3/2021)を開封して中身を確かめると、小特集「フォトグラメトリ(その1)」ということで興味をそそる記事が沢山ありました。いつもは目次をみてそのまま置き場に直行する雑誌ですが、今回は久しぶりに幾つかの記事を読みました。考古に関連する記事も2つあります。

「3Dモデルによる博物館リソース可搬性の向上」(倉島治、森建人)、「OUR Shrijo みんなの首里城デジタル復元プロジェクト-記憶の収集-」(川上玲)

2つともとても参考になります。

考古とは直接関係ありませんが、自分が一番興味をもったのは次の記事です。

「Web裸眼実体視サイトの自動生成について」(笹川啓)

この記事の感想をメモします。

1 「Web裸眼実体視サイトの自動生成について」(笹川啓)


「Web裸眼実体視サイトの自動生成について」(笹川啓)の冒頭部分

「写真測量とリモートセンシング-空間情報の計測と利用-」(3/2021)から引用

この記事では国土地理院サイトの防災コーナーで震災直後と後年の写真を裸眼実体視できるようにしたことを例に、webで裸眼実体視できるようにした国土地理院技術開発について述べています。

そもそも裸眼実体視の意義として、災害において迅速に画像を提供して、その画像を機械に依存しないで、だれでも現場の実体視を得ることができることをあげています。

2 国土地理院「震災後10年間の国土地理院の対応 空中写真の3D表示(実体視)」

国土地理院「震災後10年間の国土地理院の対応 空中写真の3D表示(実体視)」では4地点の震災直後とその後の同じ場所の空中写真を裸眼実体視出来るようにしています。


空中写真の3D表示(実体視)

国土地理院サイトから引用

場所別に撮影年月日をクリックすると次にような裸眼実体視画面になります。


裸眼実体視画面

国土地理院サイトから引用

写真の拡大縮小とステレオ方法(交差法、平行法)を選択できますからとても楽に裸眼実体視できます。

このサイトには裸眼実体視する方法の説明もあります。

3 感想

3-1 防災冗長性メリットとしての裸眼実体視

日本写真測量学会誌のフォトグラメトリー特集号で裸眼実体視という肉体依存技術(眼球操作技術)に新しい価値を見出している写真測量関係者や国土地理院関係者がいることがわかり、なにかとてもうれしくなりました。

確かに災害対応などでは、最後のギリギリのところでは機械に依存しない実体視技術が役立つ場面があるに違いありません。防災技術に冗長性メリットを生むものとして裸眼実体視が着目されているのだと思います。

3-2 市民が使える有力3D技術としての裸眼実体視

既に現場が失われ、残された有力情報は過去の空中写真だけだという考古地物・現場は沢山あります。

例えば、自分の自宅近くの花見川に戦争遺跡(トーチカ)があります。それは米軍空中写真に写っています。そしてその写真を裸眼実体視して有用な情報を得ることができました。単写真だけでは得られる情報は限定されます。裸眼実体視技術(眼球操作技術)はデジタル図化機と縁のない市民にとって有力な3D技術となります。

参考 ブログ花見川流域を歩く2012.12.18記事「覆土秘匿前のトーチカの姿を米軍空中写真で見る

参考 ブログ花見川流域を歩く2013.05.04記事「特別参考 鉄道連隊建設橋脚等の裸眼実体視資料

2021年7月4日日曜日

Sketchfabの楽しみ方(likes機能)

 3Dモデル投稿サイトSketchfabを利用しだしてからはや2年半経ちました。そして遅ればせながら、Sketchfabサイトのlikes機能について今日はじめて気が付きましたのでメモします。

1 Sketchfab likes機能

自分のSketchfabサイト(arakiminoru)ではModelsをクリックすると自分が投稿した全3Dモデルを閲覧することができます。Likesには数値が書かれていて、いままでは単純なLike数(いいね数)の集計だと思っていました。しかし、クリックすると画面が切り替わり、本人(自分)がLikeした相手3Dモデル一覧になります。


arakiminoruの3Dモデル画面(左)とLikes画面(右)

Sketchfabにこのような機能があるならば、3Dモデル技術習得に大いに利用できそうです。高度な3Dモデル技術を駆使していらっしゃる方々のLikes画面をみれば、その方々が参照している多様な高度作品をみることができます。最先端技術を参照することができます。また、狭義テクニックだけでなく、作品を作るうえでの素材選定の仕方、素材をどのような視点で表現しようするのかなどの広義技術も参照できるに違いありません。私が興味を持っている(見せるモデルではなく)実用的学習ツールとしての3Dモデルの参考事例もたくさん見つかるかもしれません。

次に高度3Dモデルを投稿していらっしゃる専門家の方々のLikes画面を覗いてみました。

2 Thomas Flynnさん


Thomas FlynnさんのSketchfab画面 3Dモデル画面(左)とLikes画面(右)

Thomas Flynnさん(イギリス)はSketchfabの文化財担当責任者です。Sketchfabから定期的に、素晴らしい3Dモデルを厳選してSNSで情報発信されています。自分もその情報発信を随分と利用させていただきました。また世界中の文化財3Dモデルを長期にわたってみてきておられるのでThomas Flynnさんご自身の3Dモデルも絶えず新しい試みに満ちています。そのThomas FlynnさんのLikes画面がみれるのですから、大いに参考にさせていただくことにします。

3 Mario_Wallnerさん


Mario_WallnerさんのSketchfab画面 3Dモデル画面(左)とLikes画面(右)

オーストリアの考古学者Mario_WallnerさんのSketchfabサイトをみると「これが一流考古学者ご本人が作成した一流3Dモデルというものだ」という感想をもつことができます。考古学興味そのものと、3Dモデル作成高度技術の双方が作品からにじみ出ています。また多様な興味対象を多数の3Dモデルで表現している多作家です。Mario_WallnerさんのLikes画面をこれからじっくりみるのが楽しみです。

4 nonakaさん


nonakaさんのSketchfab画面 3Dモデル画面(左)とLikes画面(右)

nonakaさんは古墳の羨道石室という地下空間を3Dモデルとして記録されている超専門家です。私はnonakaさんの3Dモデルを見て3Dモデルのもつ強力な表現力に驚愕しました。nonakaさんのLikes画面をじっくり参照して養分を得たいと思います。

5 Fujiさん


FujiさんのSketchfab画面 3Dモデル画面(左)とLikes画面(右)

福島で活躍されているFujiさんは世界的な3Dモデル作家といえる方です。規模の雄大な3Dモデルを作成して世界中から注目されています。そのFujiさんがどのような作品をみているのか、これからLikes画面を見ることが楽しみです。

2021年7月2日金曜日

2021年6月ブログ活動のふりかえり

 ブログ「花見川流域を歩く」とそのファミリーブログの2021年6月活動をふりかえります。

1 ブログ「花見川流域を歩く」

・6月の記事数は20です。

ア 有吉北貝塚北斜面貝層における埋没地形の把握

断面図から貝層上面高度、貝層基底面高度、下総層群上面高度を拾い、それを等高線に表現し、さらにその等高線からDEMを作成して地形3Dモデルに表現しました。この地形は発掘調査報告書掲載発掘状況写真とも照らし合わせて確度の高い情報として認識して理解することができました。

イ 有吉北貝塚発掘調査報告書掲載モノクロ写真のカラー化

有吉北貝塚北斜面貝層に関する120枚の発掘状況写真をPhotoshopニューラルフィルター機能を利用してカラー化し、観察しやすくしました。この作業のなかで嫌でも全部の写真を詳細に観察することになり、一種の発掘疑似体験をすることができました。

ウ Blenderアニメ機能利用チャレンジ

縄文土器集成3Dモデル、土偶集成3Dモデルを利用してBlenderアニメ機能の利用に初めてチャレンジしました。

土偶を回転させるアニメモデルの作成、多数土器(あるいは土偶)に対してカメラを移動させてその動画を撮影するアニメモデルを作りました。土偶回転モデルはSketchfabにアニメモデルとして投稿しました。

2 ブログ「花見川流域を歩く番外編」

地層断面図パネルをBlenderで組み立て3Dモデルを作成する方法のメモなど3記事を書きました。

3 ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」

・早朝散歩記事を5編書きました。

4 ブログ「世界の風景を楽しむ」

・DEM-Net Elevation APIによる地形3Dモデルを楽しむ記事を1編書きました。

5 ブログ「芋づる式読書のメモ」

設楽博己著「顔の考古学 異形の精神史」の学習記事1編を書きました。

6 6月学習の特徴

有吉北貝塚北斜面貝層の断面図分析・写真カラー化という作業に集中するとともにBlender操作技術習得に熱中しました。この活動の中で、考古学習という趣味活動における自分の味付けの仕方が明瞭に自覚できました。3Dモデル関連技術が私の趣味活動におけるコアコンピタンスになると気が付いたということです。コアコンピタンスという割には現状ではあまりに虚弱な能力ですが。

7 2021年7月学習のイメージ

ア 有吉北貝塚北斜面貝層学習

・純貝層・混土貝層&混貝土層の分析学習、3Dモデル作成

・土器片、石器、アリソガイ製ヘラ状貝製品等遺物別の分布検討

イ 3Dモデル作成技術の習得

Blender、Sketchfabなどの操作技術向上、Premiere proによる動画表現技術向上。

参考

ブログ「花見川流域を歩く」2021年6月記事

〇は閲覧数が多いもの

ブログ「花見川流域を歩く」2021年6月記事

ブログ「花見川流域を歩く 番外編」2021年6月記事

ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」2021年6月記事

ブログ「世界の風景を楽しむ」2021年6月記事

ブログ「芋づる式読書のメモ」2021年6月記事


2021年6月Sketchfab投稿3Dモデル一覧


2021年7月1日木曜日

モノクロ画像のカラー化

 多くの発掘調査報告書の写真はモノクロ画像が主であり、カラー画像を多様しているものはほとんど見かけないのが現状だと思います。しかし遺物・遺構・遺跡の状況をモノクロ画像でみるよりカラー画像でみる方がはるかに判りやすく、観察しやすく、印象によく残るようになります。そこで一つの便法として発掘調査報告書掲載モノクロ画像をPhotoshop最新機能であるニューラルフィルター機能を利用してカラー化して、それがどの程度実用的に使えるか検討してみました。

1 有吉北貝塚発掘調査報告書掲載写真のカラー化


発掘状況写真

カラー化画像と参考カラー画像(類似構図の近接時点写真)を比較すると、色彩の感じ(色味)はあまりかわりません。モノクロ画像を使うより、カラー化画像を使った方が学習が楽になり、促進できることが確認できます。

なお、参考カラー画像には青色のブルーシートが2つ写っていて、そのうち画面下部のものはモノクロ画像にも存在しているようです。しかしこのブルーシートはカラー化画像には青色として表現されていません。


土器出土状況


土器出土状況


土器出土状況

色彩が元写真の色彩をどれだけ忠実に再現しているかということを不問に伏せば、カラー化画像は常識感覚的な色彩になっていて、モノクロ画像よりも判りやすく、親しみやすい画像になっています。

2 「伊那路」第11巻1号 別刷り「御殿場遺跡緊急発掘調査慨報(1967)」掲載写真のカラー化


顔面付釣手形土器出土状況

もともとの紙印刷における写真の状態が悪いものですが、違和感の少ないカラー画像になりました。折尺が黄色だったとすれば、その色は表現されていません。

3 山内清男(1967)「日本先史土器図譜」掲載写真のカラー化


勝坂式顔面付釣手土器 東京都杉並区で発見か?(重要美術品)


堀之内式土器

土器のカラー化は違和感の少ないものになっています。堀之内式土器の参考カラー写真は現物ではなく複製品(市立市川考古博物館展示)です。

4 戦前「鉄道連隊花見川架橋演習」絵葉書のカラー化


柏井橋梁架橋写真 軽便鉄道敷設演習 1927年頃


柏井橋梁架橋写真 普通鉄道敷設演習 1935年頃

干した稲が茶色に、植物が緑に、遠景・空が青に、工事現場がセピア色に彩色され、満足感は高くはありませんが、一応それなりのカラー化は行われたということが出来ます。

5 2021年6月22日撮影花見川早朝風景写真のカラー化


花見川早朝風景写真

カラー画像はナチュラルフィルター撮影、モノクロ画像はラフモノクローム撮影です。カラー化画像をカラー画像と比較すると、赤い花、ビニールハウスのブルーシートが発色していません。空の青は逆に鮮やかになっています。

6 感想

Photoshopニューラルフィルター機能によるモノクロ写真のカラー化では土(土層、地層)、土器、植物、空などは本来の色に近い色が再現されるようです。一方、花の赤、ブルーシートの青は再現されませんでした。このような結果から遺跡の発掘状況、土器の出土状況、地層断面状況などのモノクロ画像をカラー化することには一定の意義(価値)があると考えることができます。

資料(学術的資料)として使うことを考えなければ、学習用素材としてつかうのであれば、Photoshopを使ってモノクロ画像をカラー化することは価値のある活動であると考えます。

古い図書に掲載されているモノクロ写真のカラー写真原本は一般に存在しませんから、Photoshop機能がさらに進化すればカラー化は資料再生的な意味を持つかもしれません。

個人学習として発掘調査報告書掲載写真のカラー写真原本をその所蔵機関に閲覧申請することは、時間と手間がかかるという点でハードルが高く、よほどのことがなければ使える方法ではありません。

なお、以前印西市西根遺跡出土木製品写真、発掘状況写真を閲覧申請して、イナウ分析資料として有効利用させていだいたことがあります。