2020年8月27日木曜日

縄文学習における展示遺物3Dモデル作成とその活用法

 博物館・資料館に展示されている遺物をショーケース越しに写真撮影し、フォトグラメトリーにより3Dモデルを作成し、縄文学習に活用しています。ショーケース越し撮影という劣悪な撮影環境下で作成された3Dモデルであっても、学習という活動では意外にも大変役立っています。そこで、3Dモデルが学習面においてどのように役立っているか、列挙してみました。

1 グルグル回して眺める。(手に持って観察することの疑似体験)…観察

・展示ショーケース内の展示物を遠くから見るだけではじっくり観察できません。そもそも10分でも20分でも場所を一人占めしてじっくり観察することは一般に許されせん。

・ところが、3Dモデルにしてパソコンで操作すればくるくる回しながら、拡大や縮小を自由に行いながら観察できます。対象物を手にもって観察することの疑似体験を時間制限なしにできます。

・展示現場では気が付かなかった事柄について観察できることもしばしばあります。

・3DモデルはSketchfabにアップロードすれば、webサイト・ブログ・Twitter・Facebookなどに埋め込むことができ、閲覧の自由度は高いです。

参考 全面赤彩された山形土偶頭部(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデル

加曽利B式、最大高7.2㎝、最大幅9.4㎝、最大厚4.2㎝

千葉市埋蔵文化財調査センター所蔵

撮影場所:千葉市埋蔵文化財調査センター

撮影月日:2020.08.21

ガラス面越し撮影

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.003 processing 50 images

2 展示物として通常眺めることができない角度から眺める。(例 真上から)…観察

・例えば展示物を真上から眺めることは通常できません。しかし3Dモデルをつくれば、真上からの写真は無いにもかかわらず、真上から正確な形状を観察できます。

・自由な角度で展示物の写真を作成することができます。


全面赤彩された山形土偶頭部を横から見た様子

展示施設でこのような角度で観察することは困難です。

3 任意の長さを計測する。…分析

・ショーケースの近くにスケールを置いて写真撮影できれば、3Dモデル空間にスケールを置くことができ、3Dモデル全体に実寸法を付与できます。スケールをおかなくても3Dモデル空間に既知の距離があれば実寸を付与できます。

・3Dモデルに実寸法を付与できれば、対象物の任意2点間のユークリッド距離を計測できます。

4 オルソ投影図を作成する。…分析

・3Dモデルを作成すればオルソ投影図を作成できますから、遺物の厳密な形状を知ることができます。通常の写真撮影ではオルソ投影写真撮影は不可能です。

5 6面図を作成する…分析、表現

GigaMesh Software Frameworkを使えば、3Dモデルから即座にオルソ投影6面図を作成できます。


6面図の例 称名寺式土器(千葉市餅ヶ崎遺跡)3Dモデル6面図

6 任意の切断面を作成する。…分析

・3Dモデルは任意の断面で切断することができますから、断面形状の把握や断面図作成に有効です。

・遺物現物に接触することなく遺物を疑似的に切断することができることは遺物形状理解に有用です。

称名寺式深鉢形土器(千葉市餅ヶ崎遺跡) 切断3Dモデル

撮影場所:加曽利貝塚博物館

撮影月日:2019.12.27

許可:加曽利貝塚博物館の許可により全周多視点撮影及び3Dモデル公表

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v4.523 processing 93 images

7 展開図を作成する。…分析、表現

GigaMesh Software Frameworkを使えば、土器など回転体の展開図を即座に作成できます。

・展開図を作成することにより模様の分布を平面図上で把握できるようになり、便利です。


参考 GigaMesh Software Frameworkで作成した展開写真

8 3Dモデルの動画を作成する。…表現

・3Dモデル作成ソフト3DF Zephyr Liteでは3Dモデルの動画を撮影できますから、3Dモデル紹介に有効活用できます。


参考 全面赤彩された山形土偶頭部(千葉市内野第1遺跡) 観察記録3Dモデルの動画

9 異なる任意の複数3Dモデルを同じ空間に置いて3Dモデルとして直接観察比較する。…分析、表現

・Blenderを使って、複数の3Dモデルを同じ3D空間に置いて3Dモデルとして比較することができます。一種の疑似展示になります。

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以下は専門家レベルで実用化されています。(自分は未着手)

10 3Dモデルを3Dプリンターで印刷造形する。…応用

・完結した3Dモデルならば、3Dプリンターでその形状を印刷造形できます。

・学習資料、教材、グッズ、コレクションなどに活用できます。

11 VR拡張現実の素材として活用する。…応用

・展示施設内でタブレットをかざすと、その場には置いていない貴重な遺物が浮かび上がるなど

・原品の保護とか、貸出中の対応に使えそうです。

・展示物現物がゼロの展示施設(空空間)も可能です。(眼鏡をかけると学校の屋内運動施設が巨大な考古遺物展示場になるなど)

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12 感想

・自分にとって3Dモデル作成の最大意義は1の「グルグル回して眺める。(手に持って観察することの疑似体験)」です。3Dモデルにしてそれを観察することにより、対象物がいわば「心理的意味での自分所有物」となり、自分事として深い観察が可能になります。その心理変化は自分の場合は学習を進める上で大きなものがあります。展示施設で観察している時と3Dモデルを観察している時の集中度や連想力は全く異なります。

・3Dモデル作成の第2番目の意義は7の「展開図を作成する」です。3DモデルをGigaMesh Software Frameworkに投入していわば一瞬のうちに展開図が作成できることは今でも夢のようです。展開図作成により土器模様分析が自由にできるようになりました。GigaMesh Software Framework(ハイデルベルグ大学Hubert Maraさんをはじめとする研究者チームにより作成公表されているフリーソフト)に感謝します。

2020年8月20日木曜日

遺跡名誤字の失敗

 学習上重要な遺跡名の誤字に気が付きブログやSketchfabの3Dモデル、YouTubeの動画について2時間ほどの時間をかけて修正しました。その遺跡を最初に知った時からの間違いで、大きなミスですから記録しておきます。

正 餅ヶ崎遺跡

誤 餅ヶ先遺跡

千葉市餅ヶ崎遺跡は、その場所が現在は千葉市動物公園になっています。加曽利E式貝塚社会が衰退してその底になった称名寺式期頃でもこの遺跡は継続して地域の中心的役割を果たしていた場所であるといわれています。3年程前に初めて知った遺跡です。

この餅ヶ崎遺跡をパソコン自動変換のままに「餅ヶ先遺跡」と最初から誤記してきました。

修正箇所は次のように広範に及びました。

ブログ「花見川流域を歩く」10記事程度

ブログ「花見川流域を歩く」2記事

ブログ「芋づる式読書のメモ」1記事

Sketchfabの6つの3Dモデル

YouTubeの2つの動画

修正したブログ「花見川流域を歩く」2020.03.07記事


修正したSketchfabの「餅ヶ崎」関連3Dモデルのサムネイル

9コンテンツのうち6コンテンツが誤字でした。

このような規模の大きな誤字はその修正にかかる時間ロス以上に、検索で「餅ヶ崎遺跡」を入力した方に当方のコンテンツが表示されないという情報発信における根本的損失を生じてきています。


このような大きなミスが生まれないように、自分の注意力を絶えず喚起させたいと思います。


2020年8月14日金曜日

花見川柏井橋架替工事現場3Dモデル

 花見川柏井橋架替工事現場を脇の仮設橋で直線的に移動して撮影し、3Dモデルを作成しました。

出来上がったものは調整のしようがないので、一切手を加えず、メチャメチャの中に見える構造物3Dモデルを楽しみました。

1 2020.08.14早朝 柏井橋架替工事現場 3Dモデル

2020.08.14早朝 柏井橋架替工事現場 3Dモデル

完全未調整3Dモデル

3Dモデル写真測量ソフト 3DF Zephyr で生成 v5.003 processing 81 images

現場写真

現場写真

現場写真

3Dモデルの動画

2 感想
構造物を周回して撮影すればもう少しましな3Dモデルが出来ると思います。
しかし、細かい重機パイプとか空中足場のメッシュなどは写真を増やしても完全な結像にならないと思います。
水面反射の処理がどの程度可能であるのかはまだ知りません。
今回は「飛び出す絵本」をつくったような遊びを楽しみました。


2020年8月4日火曜日

ヒスイ製丸玉の3Dモデル作成ならず

ショーケースに展示されている径1㎝のヒスイ製丸玉の3Dモデル作成にチャレンジし、第1回撮影では結局最低満足レベルを超えることができませんでした。失敗の思い出づくり(?)として記録しておきます。

1 展示の様子

加曽利E式土器装飾品コーナーにおけるヒスイ製丸玉の展示の様子 右下

2 撮影写真

54枚望遠撮影の1枚の拡大写真
白点はショーケースガラス面についているほこりです。(コロナ対策の積極的送風・換気のためほこりが多いようです。)

3 マスカレード作業風景

マスカレード作業風景
対象物だけを演算対象にする準備操作です。
54枚撮影のうちそのままで3Dモデルを作成すると21枚、マスカレード作業をすると44枚の写真がソフトによって「採用」(?)されました。次の3Dモデルは44枚写真から構成されるものです。

4 3Dモデルの動画

3Dモデルの動画
ヒスイ製丸玉の表面に凸凹が出来ています。現物は滑らかな表面になっています。
この撮影ではピントの甘いモノ、手振れのモノが写真に含まれていますので、それを補正するとこの凸凹が消えるかどうか再チャレンジすることにします。

ブログ花見川流域を歩く2020.08.02記事「ヒスイ製丸玉」参照

2020年8月2日日曜日

2020年7月ブログ活動のふりかえり

ブログ「花見川流域を歩く」とそのファミリーブログの2020年7月活動をふりかえります。

1 ブログ「花見川流域を歩く」
7月の記事数は37編です。多様なテーマについて学習を楽しみました。

ア 「4.3Kイベント」
「4.3Kイベント」という概念が虚構であると考えた記事を書きました。誰かによってガセネタ「4.3Kイベント」が考古学専門家世界にばらまかれたようです。
考古事象の時系列変化理由が十分にわからないとき、その理由を気候変動で説明すると楽です。
私から見ると、考古学者という人々は気候変動自体を「自分事」として研究しないにもかかわらず、わからないことはいつも気軽に何でも気候変動で説明してしまいます。

イ 縄文時代人口研究の基本発想
縄文時代人口研究で最も信頼されている研究(小山、1984)について、その基本発想が「動物-気候変動」関係論に立脚していることを嘆く記事を書きました。動物が衰退するのは気候変動によることが多い事からの類推で、後晩期に縄文社会が衰退するのは「気候が冷涼化したから」という説明がなされ、考古学世界にその考えが蔓延しています。
この発想では、縄文社会自身が下した各種決断(選択)は全く考慮されていません。人間社会ならば、古今東西全ての社会が外部要因に対して自らの決断(選択)をして成功したり、失敗したりします。人間社会が、動物のように気候変動に無条件に相関することはあり得ません。
なお、そもそも後晩期の平均気温は現在より1度程度高かったことがグリーンランド氷床データからわかっています。

ウ 縄文社会消長大局観
「4.3Kイベント」を批判し、縄文人口研究を嘆くだけでは学習として片手落ちになりますので、現状自分知識レベルでの縄文社会消長大局観(縄文社会消長の説明)をメモしました。学習仮説と称して、今後知識量を増大させるなかで順次改訂・改良したいと思います。

エ 年縞博物館提供情報
福井県の年縞博物館から三方五湖花粉分析情報を提供していただき、縄文前期~中期の気候変動について学習しました。

オ 千葉中期土偶
千葉の縄文中期土偶について学習し、貝塚地帯は土偶拒否、中部高地から東京(三多摩)は土偶祭祀が盛んな状況を知りました。また九十九里に飛び地的に中部高地由来の土偶祭祀が存在している興味ある事象を知り、問題意識を深めました。

カ 土偶と地母神殺害再生神話
加曽利貝塚博物館展示土偶等について3Dモデルを作成して、観察しました。地母神殺害再生神話を土偶形状に投影して、土偶形状の意味について考察しました。

キ 土偶祭祀の列島伝播経路
全国土偶悉皆調査(1992)データを分析して、地母神殺害再生神話に基づく土偶祭祀の列島における伝播について考察しました。

ク 有孔円板形土製品
有孔円板形土製品が麻ロープ生産装置の一部を構成する道具(回転させて麻糸を撚る)であることを知りました。関連して、縄文後晩期集落は交易用特産品(贅沢品・奢侈品・祭祀道具等)を生産しないと世間を渡っていけないことを学習しました。

ケ 異形台付土器
異形台付土器について3Dモデルを作成し、それが土器2つを使った大麻煙発生吸引装置のフィギュア(イコン)であることを仮説しました。

2 ブログ「花見川流域を歩く 番外編」
3Dモデル作成技術等記事4編を書きました。

3 ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」
早朝散歩記事8編を書きました。

4 ブログ「世界の風景を楽しむ」
海外で興味を持った場所の地形3DモデルをDEM-Net Elevation APIで作成して反芻し、楽しむ記事を4編書きました。

5 ブログ「芋づる式読書のメモ」
山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)の順次学習記事を6編書きました。第5章を7月中に終える予定でしたが、次々に興味が深まってしまい、第5章を完結できませんでした。機械的に完結するよりも学習を深めて楽しむ方を優先させました。
学習を進めるにしたがい、この図書に記述されている情報量の多さ、深さ、最新性や鋭い視点などに感動し、この図書に引き込まれています。具体的遺跡の例示が多いので、それにより自分の視界が広がっています。参考資料リストも大変充実していて、それを利用した資料入手→知識増大が進んでいます。感謝。

6 7月学習の特徴
ア 学習スタイルの定式化
次の3活動項目の連携がうまく取れて、多様なテーマを楽しみ、知識も増えました。

●山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)の章・節・小見出し順次学習→キーワード、問題意識の醸成
●関連資料・図書の入手→web書店・web古書店・図書館の活用→知識増大
●加曽利貝塚博物館観覧・展示物撮影→3Dモデル作成→GigaMesh Software Frameworkによる3Dモデル分析等→遺物のデータ化(思考のための素材化)

学習スタイルの一つの定式化つまり考古趣味活動の自分的在り方が浮かび上がったという感じがします。

イ 学習仮説設定の習慣化
疑問やわからないことが生まれた時、それを放置するのではなく、情報・知識不足を承知の上で自分レベルの見立て・仮説設定に努力する癖をつけました。
自分の情報・知識が少なければそれに対応した虚弱で価値の少ない見立て・仮説が、情報・知識が多ければ強固で価値の大きな見立て・仮説が生まれることになります。それは当然なことです。
しかし、見立て・仮説がひとたび生まれると、それに基づいてあらゆる情報を見ることになりますから、情報を見る目が鋭くなります。また見立て・仮説の修正・改良が始まります。つまり学習が加速されます。
7月は、「下手な考え休むに似たり」ということで生産性のない時間が長時間経ち、焦る場面も何回かありました。しかし、頭脳から「ウンウン」音が出るほど思考するうちにこれまで気が付かなかったことに気が付くことがありました。その時は、我ながら思考に時間をかけてよかったと満足感を得ました。
ページ「縄文社会消長仮説の部品」も開設しました。

ウ Blender技術習得活動の欠落
当初予定していたBlender技術習得活動は完全に欠落してしまいました。

8 8月学習のイメージ
ア 7月学習の継続
7月に定式化できた学習スタイル(下記3項目の連携)を継続発展させることにします。
●山田康弘著「縄文時代の歴史」(2019、講談社現代新書)の第5章残とエピローグ学習
●入手資料・図書等の有効活用
●加曽利貝塚博物館等の展示物3Dモデル作成分析

イ 学習仮説メモの充実
ページ「縄文社会消長仮説の部品」を活用して、自分の学習仮説メモを充実させ、体系化を目指すことにします。

ウ 3Dモデル分析技術の向上
展示物3Dモデル分析技術の向上を図ります。
・GigaMesh Software Frameworkのより高度な活用
・Blenderによる複数対象物の対比的配置、3次元スケールの設置など

参考
ブログ「花見川流域を歩く」2020年7月記事
〇は閲覧が多いもの

ブログ「花見川流域を歩く 番外編」2020年7月記事
ブログ「花見川流域を歩く 自然・風景編」2020年7月記事
ブログ「世界の風景を楽しむ」2020年7月記事
ブログ「芋づる式読書のメモ」2020年7月記事
2020年7月ブログ「花見川流域を歩く」37編記事のサムネイル