2018年3月16日金曜日

ティコピア島――社会と環境のコントロール

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)の学習 14

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)を読んでその抜き書きをしたり、感想をメモしたりしています。この記事では「第9章存続への二本の道筋」で書かれている成功事例の一つであるティコピア島について抜き書きをしてその感想をメモします。

1 ティコピア島――社会と環境のコントロール
太平洋南西部にぽつんと浮かぶ小さな島、ティコピア島は、ボトムアップ方式が成功を収めたもうひとつの例だ。島の総面積はたったの五平方キロ、人口は千二百人。耕作可能な土地における人口密度は、一平方キロ当たり二百五十人となる。これは、現代的な農業技術を持たない伝統社会としては、稠密といえる人口だ。しかしながら、この島にはほぼ三千年にわたって、途絶えることなく人間が居住している。

ティコピア島民の生存を支えうるだけの主食を輸入することなど、望むべくもなかった。とりわけティコピア島では、乾季の五月と六月、そして予測不能な間合で菜園を破壊するサイクロンの襲来後に備えて、飢餓を避けるためのじゅうぶんな余剰食糧を生産し、貯蔵しなくてはならない――ティコピア島は太平洋の主要なサイクロン・ベルト内に位置し、十年間に平均二十個のサイクロンに見舞われる。つまり、ティコピア島で生き延びるには、三千年にわたってふたつの問題を解決する必要があった。どうすれば、千二百人の住民を養うに足る食糧供給を確実に生み出せるのか? そして、どうすれば、人口を維持可能な水準にとどめておけるのか?

ティコピア島における食糧生産の持続能力は、第2章で論じた環境要因のうちのいくつかを介して向上している。つまり、太平洋上の島々に存在する一部の社会は、ほかの島に存在する社会よりも持続能力が高く、環境悪化による影響を受けにくい傾向があるのだ。
ティコピア島の持続能力に都合よく働いている要因としては、降雨量の多さ、適度な緯度、火山灰(ほかの島々の火山によるもの)とアジアからの黄砂が大量に降り積もる一帯に位置していることが挙げられる。これらの要因は、ティコピア島民に与えられた地理上の思いがけない幸運から成り、どれも好ましい条件ではあるものの、島民自身の功績とは呼べない。

幸運の残りの部分こそ、島民がみずからの行動で勝ち取ったものと言える。島のほぼ全域は、細部まで管理され、他の太平洋上の島々で普及している焼き畑式農業とは一線を画す、持続可能な安定した食糧生産に充てられている。ティコピア島のほとんどすべての植物種は、なんらかの形で人々に利用され、雑草でさえ菜園の根覆いの役を果たし、野生の樹木は飢饉の際の食糧源となる。

ここまでは、ティコピア島の人々が持続可能な食糧供給を確保する方法について述べた。ティコピア島での居住を持続可能にするためのもうひとつの必要条件は、人口を安定させ、増やさないことだ。

ティコピア島の伝統的な人口制限の七つの方法のうち、最も簡単なのは、性交中絶法による避妊だった。もうひとつの方法は、出産の近い妊婦の腹部を圧迫したり、熱した石を腹部に乗せたりして引き起こす堕胎だ。また、別の選択肢として、新生児を生き埋めにしたり、窒息させたり、うつ伏せにしたりして、嬰児殺が実行された。貧しい家族の次男や三男は独身を貫き、結果として余剰となる適齢期の女性たちも、一夫多妻制のもとで結婚するよりも、独身でいることを選んだ――ティコピア島では〝独身〟とは子どもを持たないことを意味し、性交中絶法を行なったり、必要なら堕胎や嬰児殺に頼ったりすることを禁じられてはいない。さらにもうひとつの方法は、自殺だ。一九二九年から一九五二年までのあいだに、首吊りによる自殺が七例(男性六人、女性一人)、海へと泳ぎ出る入水自殺が十二例(すべて女性)あったことが知られている。そういう明らかな自殺よりもずっと一般的なのは、危険を承知で航海に出る〝事実上の自殺〟で、一九二九年から一九五二年のあいだに八十一人の男性と三人の女性の命を奪った。この種の航海は、未婚男性の死因の三分の一以上を占めていた。

 ティコピア島の首長たちは、氏族の土地やカヌーを管理する領主としての役目を担い、資源を再配分する。しかし、ポリネシアの基準に照らせば、ティコピア島の首長制社会には最小限の階層しかなく、首長たちの力は非常に弱い。首長とその家族は、一般人と同様、みずからの食糧を作り、菜園や果樹園を耕す。ファースによれば、「結局、生産様式は、社会の伝統に内在するものだ。そのなかでは、首長はただの主因であり、解釈者にすぎない。首長と平民は、同じ価値観を共有している。親族のイデオロギー、儀式、そして伝説と神話で強められる倫理観。首長は、かなりの程度までこの伝統をつかさどっているが、独力で取り仕切るわけではない。年長者や首長仲間、氏族の人々、家族さえ含む全員が、同じ価値観を堅持し、首長の行動に助言や批評を加える」。つまり、ティコピア島の首長が担う役割には、次項で論じる大きな社会の指導者たちが担う役割と比べて、〝上から下へ〟の管理という意味合いがずっと希薄なのだ。
ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、下)から引用

ティコピア島の位置

ティコピア島の様子

2 感想
持続可能な食糧供給を可能にする試みを成功させ、同時に人口増加を抑制する方法も編み出すことが社会崩壊を免れる上でとても重要であることが理解できます。
人口増加抑制の方法として自殺まで組み込んでいたという点は自分にとってはじめての知識です。

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