ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)の学習 20
ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)を読んでその抜き書きをしたり、感想をメモしたりしています。この記事では「第3部現代社会 第13章搾取されるオーストラリア」の感想をメモします。
1 搾取されるオーストラリア
次の項目について詳しくオーストラリアの資源搾取と環境破壊等の問題が述べられています。
・オーストラリアの重要性-資源の搾取
・最も非生産的な大陸
・予想不可能な降雨量
・他国からの距離の問題
・歴史-入植者と先住民
・価値観の輸入
・貿易と移民
・土地の劣化
・その他の環境問題-林業、漁業、淡水、外来種
・希望と変化の兆し
オーストラリアに最初に入植した人々が見た豊かな森林や草原はいったんそれを消費すると再びもとに戻らない脆弱なもので、かつ降雨量の予測ができないことから資源の搾取と環境破壊が進んだ様子が詳しく分析されています。
筆者は最初に「生態学的に見ると、オーストラリアの環境は並はずれて脆弱で、おそらくアイスランドを除けば、先進国中で最も脆弱だろう。その結果、他の先進国にいずれ大損害をもたらすかもしれず、第三世界の諸国ではすでに顕在化している多くの問題――過放牧、塩性化、土壌浸食、外来種、水不足、人為的な旱魃――が、オーストラリアではゆゆしき段階を迎えつつある。つまり、オーストラリアは、ルワンダやハイチのように崩壊の危機に瀕しているわけではないが、現在の傾向が続けば先進国のどこかで実際に起こるはずの数々の問題の、毒見をしているようなものだ。」とまで書いています。
オーストラリアの地図(標高で色分けした地図)
オーストラリアの地図(森林率地図)
2 希望と変化の兆し
希望と変化の兆しの項で筆者は次のように述べています。
「 希望と変化の兆し
つまり、オーストラリアは並はずれて脆弱な環境をかかえ、それがさらに、莫大な経済的負担を強いるいくつもの過程で損なわれてきた。それらの損失の一部は、もはや回復不可能な過去の被害から生じている。例えば、数種類の土地の劣化や、在来種の絶滅がそうだ――近年、オーストラリアではどの大陸よりも多くの種が絶滅している。ほとんどの被害は、今日も進行中か、あるいはタスマニア州における原生林伐採の事例のように、さらに増大もしくは加速しつつある。被害の過程のいくつかは、長期の構造的なタイムラグのせいで、もはや食い止めることが不可能に近い。例えば、すでに移動した塩分を含む地下水の、丘のふもとへのゆるやかな流れによる影響は、何世紀にもわたって広がり続けるだろう。多くのオーストラリア人の文化的な姿勢と政府の施策は、過去に損害をもたらし、現在ももたらし続けていながら、変化しないままだ。例えば、水政策の改革に対する政治的な障壁の中に、〝水利権〟(灌漑用水を引く権利)の市場から生まれる障壁がある。この水利権の購入者は、当然のことながら、利用のために高い金を払った水を実際に所有していると考える。しかし、許可証に記載された用水の総量が平年に得られる水量を上回ってしまっているのだから、その権利を所有者全員が行使することは不可能だ。
悲観的になりがちな人は、あるいは単に現実を冷静にとらえようとする人も、以上に挙げた事実を見れば、オーストラリアが、確実に悪化する環境の中で生活水準を落としていく運命にあるのではないかと疑ってしまうだろう。それは、オーストラリアの将来のこの上なく現実的なシナリオだ。人類滅亡論者が予言するイースター島のような人口激減や、現代オーストラリアの政治家や企業家の多くがのんきに想定する現在の消費率と人口増加の継続よりも、はるかに蓋然性が高い。あとに挙げたふたつのシナリオが非現実的で、最初のシナリオが現実的であるという見通しは、ほかの先進諸国にも当てはまる。唯一の違いは、オーストラリアがどこよりも速く最初のシナリオに行き着く可能性が大きいという点だろう。 幸いなことに、希望の徴候もある。姿勢の変化、農業経営者たちの考えかたの変化、民間主導の活動、政府主導の抜本的な活動の始まり。こういう風向きの変化は、ノルウェー領グリーンランド(第8章・上巻)との関連ですでに検討し、このあと第14章と第16章でも振り返るひとつの主題を例示している。社会に深く根づいた基本的価値観のうち、どれを社会の存続と両立させられるか、そしてどれを捨て去らねばならないかを決断するという難題だ。
… … …
オーストラリアでは、今や世界じゅうを巻き込み、幾何級数的に加速する二頭立ての競馬が極端な形で試行されている――〝加速〟とはどんどん速度を増すこと、〝幾何級数的な加速〟とは核分裂連鎖反応のように、等しい時間間隔で、二倍から、四、八、十六、三十二……倍の速さへと加速していくこと。一方の馬は、世界全体と同様、オーストラリアでも、幾何級数的に加速している環境問題の悪化。もう一方の馬は、やはり幾何級数的に加速する国民の環境への懸念と、民間及び政府の対抗措置の発展。どちらの馬がレースを制するのか? 本書の読者の多くは、まだじゅうぶんに若く、じゅうぶんに長生きをして、その結果を目にすることだろう。」ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、下)から引用
3 感想
この本を読むまでは砂漠が国土の大半を占めることは知っていましたが、農業適地での農業は将来展望があるものだと考えていました。オーストラリアからの肉など輸入品から受ける印象は国土の豊かさを暗示していると考えていました。以前コメ不足騒動の時に食べたオーストラリア産コメは外米のイメージはなく、うまくて安くて好印象を持ちました。しかし現実は環境破壊の代償としての農産物輸出という側面があることを知りました。
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