ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)を読んでその抜き書きをしたり、感想をメモしたりしています。この記事では「第4部将来に向けて 第14章社会が破滅的な決断を下すのはなぜか?」の感想をメモします。
1 社会が破滅的な決断を下すのはなぜか?
文明崩壊の多数の例と成功社会の幾つかの例から社会がなぜ破滅的な決断を下すのか、次の項目に従って詳しく分析しています。
・正しい意思決定へのロードマップ
・環境問題の予期
・環境問題の感知
・合理的かつ非道徳的な行動
・環境被害に結びつく価値観
・非合理的行動が生み出す失敗
・失敗に終わる解決策
・希望の兆し-失敗の原因を理解すること
最初の「正しい意思決定へのロードマップ」で集団の意思決定を失敗にいたらしめる要因を次のように整理しています。
●集団の意思決定を失敗にいたらしめる要因
1 実際に問題が生まれる前に、集団が問題を予期することに失敗する可能性
2 問題が生まれたとき、集団がそれを感知することに失敗する可能性
3 問題を感知したあと、解決を試みることにさえ失敗する可能性
4 解決を試みたとしても、それに成功しない可能性
以下本書中で記述されている事例を列挙します。
2 集団の意思決定に失敗した事例
2-1 実際に問題が生まれる前に、集団が問題を予期することの失敗
・オーストラリアへの19世紀イギリス人入植者のキツネとウサギの持ち込み
・グリーンランドのノルウェー人がヨーロッパにおける象牙輸入によるセイウチ牙市場の消滅や海氷増大による船舶交通途絶を予見できなかったこと
・コパンのマヤ族が土壌浸食を予見できなかったこと
・(文字がないので旱魃の歴史が伝わらず)ツチャコ峡谷のアナサジ社会が旱魃に屈したこと
・(旱魃の歴史を文字にしなかったので)古典期低地マヤが旱魃に屈したこと
・アイスランド入植ヴァイキングの土壌の見誤り
2-2 問題が生まれたとき、集団がそれを感知することの失敗
2-2-1 文字通り感知できない事柄
・地力をもたらす栄養分の存否…オーストラリア、マンガレヴァ島、アメリカ南西部各地
2-2-2 遠く離れた管理者
・モンタナ州
・(現場管理者による成功した事例…ティコピア島、ニューギニア高地人)
2-2-3 振幅の大きい上下動に隠された緩やかな傾向(這い進む状態、風景健忘症)
・地球温暖化
・中世グリーンランド人(寒冷化)
・マヤ族、アナサジ族(乾燥化)
・モンタナの氷河
・イースター島の高いヤシの木
2-3 問題を感知したあと、解決を試みることの失敗
2-3-1 合理的行動(利害衝突)
・助成金によるアメリカでのサトウキビ栽培
・助成金によるオーストラリアでの綿花栽培
・モンタナ州西部の不法なカワカマス持ち込み
・モンタナ州鉱業会社の汚染放置の廃業
2-3-2 共有地の悲劇(囚人のジレンマ、集団行動の論理)
・主要海洋漁場の過剰利用、崩壊
・人が定住した島、大陸における大半の大型動物の絶滅
・(幸運例…モンタナの漁場や灌漑系の維持、江戸時代日本・インカ帝国・16世紀ドイツ公国君主による樹木管理)
・(幸運例…ティコピア島島民・ニューギニア高地人・インドカースト構成員の資源管理、アイスランド人)
2-3-3 主要消費者と社会全体の利害衝突
・熱帯雨林の商業的伐採
2-3-4 支配層と一般社会の利害衝突
・エンロンの経営陣
・マヤの王たち、ノルウェー領グリーンランドの首長たち、現代ルワンダの政治家たち
・(幸運例…オランダの政治家と大衆、ニューギニア高地人のビッグ・マンたち
2-3-5 宗教上の価値観
・宗教上の価値観…イースター島の森林乱伐、ノルウェー領グリーンランド
2-3-6 価値を失った価値観への固執
・オーストラリアの羊の飼育
・モンタナの採鉱と伐採と牧場経営の問題解決を渋る
・ルワンダ人の大きな家族を持つ理想
2-3-7 非合理的行動
・一般庶民の反感…オーストラリアタスマニア州における緑の党のキツネ導入抗議
・短期と長期動機の衝突…熱帯サンゴ礁を擁する地域の貧しい漁師、アメリカ政府の新しい指導者
・群衆心理…十字軍熱狂、チューリップ熱、魔女裁判、ナチスに煽り立てられたドイツ民衆狂乱状態、ピッグス湾事件
2-4 試みた解決策の失敗
2-4-1 問題が解決能力を超えている(法外な費用、努力が足りなすぎる、遅すぎる)
・ノルウェー領グリーンランドの破綻
・アナサジの最終的な失敗
2-4-2 外来種の問題
・モンタナ州のハギクソウ
・オーストラリアのウサギ
3 社会が常に問題解決に失敗するわけではないこと
幾つかの集団は失敗する一方、他の集団はそうならない。
3-1 失敗の原因を理解すれば大きな災いを回避することができる。
「そういう理解がうまく利用された特筆すべき事例として、ケネディ大統領とその顧問団による、キューバとアメリカをめぐる連続した二回の危機に対する審議の対照性が挙げられる。一九六一年の春、彼らは浅はかな集団意思決定の罠に落ちて、ピッグズ湾への侵攻開始という破滅的な決断に及んだ。それは不名誉な失敗に終わり、はるかに危険なキューバ・ミサイル危機を招くことになった。アーヴィング・ジャニスがその著書『集団思考』で指摘しているように、ピッグズ湾事件の審議には、間違った決断を導きがちな数多くの特徴が見られた。例えば、表向きの合意の早まった察知、個人的な疑念や反対意見の表明に対する抑圧、集団の指導者(ケネディ)が意見の不一致を最小限にする方法で議論を進めたことなどだ。しかし、その後に続いたキューバ・ミサイル危機の審議では、ふたたびケネディと同じ顔ぶれの顧問の多くが関わったものの、それらの方向性を回避して、議論を有意義な意思決定に結びつく軌道に乗せることができた。その要因としては、ケネディが、疑念を捨てずに考えるよう参加者に命じたこと、好き勝手な意見が言えるまで論議を重ねたこと、複数の下位集団と別々に、会談したこと、自身が議論に影響を与えすぎないよう、ときどき席をはずしたことなどが挙げられる。
なぜ、二回のキューバ危機の意思決定は、これほど異なる展開を示したのだろうか? 大きな理由は、ケネディ自身が一九六一年のピッグズ湾事件の大失態後に、自分たちの意思決定のどこが間違っていたのかを真剣に考え、顧問団にも真剣に考えるよう指示したことだろう。その考えに基づき、ケネディは、一九六二年の討議での顧問団の動かしかたを、意図的に変更したのだ。」ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、下)から引用
3-2 勇気と洞察力を持った賞賛すべき指導者
「江戸時代初期の将軍たちは、日本の森林乱伐をイースター島の段階に達するずっと前に食い止めた。ホアキン・バラゲールは、(いかなる動機があったにせよ)イスパニョーラ島東側のドミニカで環境保護を強硬に支援して、西側のハイチと対照的な成果をあげた。ティコピアの首長たちは、メラネシア全域でブタが珍重されていたにもかかわらず、島に損害をもたらすブタを根絶する決断を取りまとめた。中国の指導者たちは、国の人口過剰がルワンダの水準に達するずっと前に、家族計画を義務づけた。賞賛すべき指導者たちのなかには、ドイツ首相コンラート・アデナウアーをはじめとする西ヨーロッパの指導者たちも含まれる。彼らは第二次世界大戦後、このようなヨーロッパの戦争が再発する危険を最小限に抑えることをおもな目的に据え、単独の国益をなげうって、欧州経済共同体としてヨーロッパの統合に乗り出した。わたしたちは、勇敢な指導者たちだけでなく、勇敢な国民も賞賛しなければならないだろう。フィンランド人、ハンガリー人、イギリス人、フランス人、日本人、ロシア人、アメリカ人、オーストラリア人、その他の人々――彼らは、どの基本的価値観が死守に値するのか、どの価値観がもはや意味をなさないのかについて、賢明な決断を下した。」ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、下)から引用
4 感想
この14章が文明崩壊という本書の全体要約になります。広い視野、広い知識、バランスの取れた思考に魅了されました。
問題を感知した後その解決を試みる際、短期の動機と長期の動機が衝突する非合理的行動の事例として「アメリカ政府の新しい指導者」が詳しく説明されていますが、現在のトランプ大統領の行動そのものを説明しているようで、特に感心しました。
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