2018年9月11日火曜日

アンコールの興亡

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)の学習 24

ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)を読んでその抜き書きをしたり、感想をメモしたりしてきています。この記事は2018.07.27記事「世界は一つの干拓地」に続く記事で、「追記 アンコールの興亡」の学習をします。この記事がジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、上下)学習の最終記事です。

1 アンコールの衰退
「追記」としてアンコールの衰退を分析しています。
「 これで、わたしたちはアンコールの衰退を、プロローグ(上巻)で述べた社会の盛衰を決する五つの要因の枠組みの中に位置づけることができる。

第一に、クメールは環境に意図せざる損傷を及ぼした。アンコール平原とクーレン山地斜面の森林を切り払った。流去水の勢いを弱める木立がなくなったので、激しいモンスーンが土を削り、堆積物を水路に流し込み、あふれた水流がシエムレアプ川の川底をえぐった。この川は今、アンコール地表の約六メートル下を流れている。
第二に、気候変動のせいで、アンコール地区は帝国の機構が想定していた以上の渇水や多雨に見舞われた。
第三に、ローマ帝国やノルウェー領グリーンランドと同じく、クメールも近隣の敵対集団の募る脅威に悩まされた。
第四に、友好的な交易相手がクメールに、アンコール中心の内陸取引の機会より魅力的な海洋貿易の機会を差し出したが、のちにその機会が制限されるようになった。
最後に、クメール帝国はアンコールの環境の魅力と問題点に対応して、治水の仕組みをどんどん巨大に、複雑に、維持しにくくしてしまい、元に戻れなくなった。

この五つの要因すべてが、相互に作用したのだろう。気候変動と土壌浸食がクメールの国力を弱めて、ついには敵国の脅威に対抗できなくなり、治水の仕組みを維持も改善もできなくなり、また、農業経済から海洋貿易へ重心を移さざるをえなくなった末に、その交易路と政治権力の移行が国益を削いでしまったのだ。

アンコールワット ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、下)から引用

2 感想
著者は本文で次の経緯を述べています。つまり、この図書を上梓した2005年にはまだ情報がなくアンコールのことは執筆できなかったけれども、その後の航空レーダー測量、地上踏査、発掘、年輪測定などで得られた多量の最新情報をもとに執筆ができた旨です。アンコールの崩壊に関する興味には大きなものがありますが、それとは別に著者の広範囲にわたる飽くなき最新情報収集とそれを強力に咀嚼する知的力に感心します。
著者はアンコールの文明崩壊について古代低密度巨大都市の事例で、かつ西欧人の植民地獲得活動の前に崩壊した事例として紹介しています。そのような文明(把握)範疇があることを始めて知り、興味が生れました。

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参考 参考文献抜き書き
この図書の「参考文献」に貝塚に関わる失敗の例が書かれていますので、参考までに抜き書きします。
アメリカ先住民時代、カリフォルニアのロサンゼルス沖に広がるチャネル諸島で、長期にわたって貝類の乱獲が行なわれていたことは、貝塚に残された殻から見てとれる。周辺でいちばん古い貝塚の大半を占めるのは、最も岸寄りの場所に棲息していた、つまり少し水に潜れば捕獲できた最大の種だ。貝塚のようすから時間の流れを追ってみると、この種の漁獲量がどんどん減るのに伴って、住民の標的が、より身が小さく、より岸から離れた深い水中に棲息する種へ移っていったのがわかる。ここでもまた、種の漁獲量は時がたつとともに減少していった。かくして乱獲は続き、ひとつの種が底をつくたびに、住民は、より旨味に乏しい、より捕獲しにくい次の種にすがりついた。Terry Jones,ed.,Essays on the Prehistory of Maritime California(Davis,Calif.:Center for Archaeological Research,1992)と、L.Mark Raab,An Optimal Foraging Analysis of Prehistoric Shellfish Collecting on San Clemente Island,California(Journal of Ethnobiology12:63-80,1992)などを参考にしてほしい。同じくチャネル諸島でアメリカ先住民によって過剰捕獲されたのが、飛べないウミガモの一種だ。空を飛ばないので捕獲がたやすかったと思われ、チャネル諸島に人間が定住したのちに絶滅の憂き目を見た。現代では、南カリフォルニアのアワビ産業も同じ轍を踏んだ。1966年、わたしがロサンゼルスに移り住んだころは、アワビをスーパーマーケットで買ったり、浜辺で捕ったりできたものだが、乱獲がたたり、とうとう生きているうちにロサンゼルスの食卓からアワビが消えるのを見届ける羽目になってしまった。」ジャレド・ダイアモンド著「文明崩壊」(草思社文庫、下)から引用

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ジャレド・ダイアモンドの著作「銃・病原菌・鉄」を引き続き学習します。その学習記事はブログ「芋づる式読書のメモ」に掲載します。

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